織機における経糸張力調整装置
- 【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】揺動変位して経糸張力変動を吸収するイージングローラを備えた経糸張力調整装置において、イージングローラのモーメントに対抗する第1のスプリングと、第1のスプリングの付勢力に対抗する第2のスプリングとによって経糸張力変動を吸収するようにした織機における経糸張力調整装置。
- 【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本考案は、揺動変位して経糸張力変動を吸収するイージングローラを備えた織機における経糸張力調整装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種の経糸張力調整装置が例えば実開昭49−98559号公報及び特開昭56−43449号公報に開示されている。
【0003】実開昭49−9859号公報の装置では、2分割して回動可能に連結したイージングレバーの一方にイージングカムを係合させると共に、他方にイージングローラを取り付け、引っ張りばねによって両分割片を回動連結部位を中心に回動付勢している。このような構成により開口運動に伴う大きな経糸張力変動の吸収が行われる。
【0004】特開昭56−43449号公報の装置では、イージングローラを押圧スプリングで張力付与方向に付勢すると共に、イージングローラと綜絖との間で張力調整ローラを開口運動に合わせて上下動させている。この構成も開口運動に伴う大きな経糸張力変動を吸収する。
【0005】
【考案が解決しようとする課題】両従来装置のスプリングはいずれも経糸張力に対抗する方向へ付勢して張力変動を吸収している。これらスプリングのばね力はイージングローラに加わる予め設定された経糸張力及びイージングローラ自重に基づくモーメントとつり合うように決められる。経糸張力が大きくなればスプリングはばね力増大方向へ伸縮し、経糸張力が小さくなればスプリングはばね力減少方向へ伸縮する。このようなスプリングの伸縮によって経糸張力変動が吸収されるが、織機の高回転によって開口運動が高速になると、イージングローラの慣性力が大きくなってイージングローラの動作が経糸張力変動に追随しなくなる。設定された経糸張力が弱い場合には経糸張力減少の際、即ちスプリングのばね力減少の際にイージングローラのオーバーランが特に著しく、張力変動の吸収ができない。
【0006】本考案は、イージングローラの動作を経糸張力変動に速やかに追従させ得る経糸張力調整装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】そのために本考案では、イージングローラの荷重モーメントに対抗する第1のスプリングと、第1のスプリングの付勢力に対抗する第2のスプリングとによって経糸張力変動を吸収するようにした。
【0008】
【作用】経糸張力が予め設定された経糸張力値よりも増大する場合には第1のスプリングがばね力増大方向に伸縮すると共に、第2のスプリングがばね力減少方向に伸縮する。従って、経糸張力増大から経糸張力減少へ高速変動する場合にも第1のスプリングがイージングローラを張力付与方向へ速やかに戻す。
【0009】経糸張力が予め設定された経糸張力値よりも減少する場合には第1のスプリングがばね力減少方向に伸縮すると共に、第2のスプリングがばね力増大方向に伸縮する。従って、経糸張力減少から経糸張力増大へ高速変動する場合にも第2のスプリングがイージングローラを張力吸収方向へ速やかに戻す。
【0010】
【実施例】以下、本考案を具体化した一実施例を図1及び図2に基づいて説明する。1はワープビームであり、ワープビーム1から送り出される経糸Tはイージングローラ2によって案内される。イージングローラ2は消極イージングレバー3によって支持されており、消極イージングレバー3は支軸4に回動可能に連結されている。消極イージングレバー2の先端部下面と固定部5との間には第1の押圧スプリング6が介在されており、消極イージングレバー2の先端部上面と固定部7との間には第2の押圧スプリング8が介在されている。
【0011】図2の直線L0 はイージングローラ2及び消極イージングレバー3の自重に基づく支軸4を中心としたモーメントM0 を表す。直線L5 はイージングローラ2及び消極イージングレバー3の自重に基づくモーメントM0 と経糸Tの張力に基づくモーメントMT との和(M0 +MT )=M5 を表す。直線L1 は第1の押圧スプリング6のばね力に基づく支軸4を中心としたモーメントM1 を表し、直線L2 は第2の押圧スプリング8のばね力に基づく支軸4を中心としたモーメントM2 を表す。横軸はイージングローラ2の支軸4を中心とした回動変位量を表し、縦軸との交点で示す原点は経糸張力が予め設定された張力値となったときのイージングローラ2の回動位置を表す。図1のイージングローラ2の位置を原点位置とすると、縦軸の右側は図1の原点位置より上側の領域、縦軸の左側は図1の原点位置より下側の領域を表す。縦軸は支軸4を中心としたモーメントを表す。横軸の上側は支軸4を中心とした反時計回り方向のモーメント領域、横軸の下側は時計回り方向のモーメント領域である。
【0012】直線L3 は、第2の押圧スプリング8が存在しないと仮定した場合に経糸張力が設定張力値のときにイージングローラ2を原点位置に保持し得る第1の仮想スプリングに基づくモーメントM3 を表す。この仮想スプリングは従来の経糸張力調整装置に用いられるスプリングであり、そのモーメントM3 は直線L5 で示すモーメントM5 と横軸に関して線対称である。
【0013】直線L4 は第2の押圧スプリング8と同一のばね特性を有し、かつ付勢方向が逆の第2の仮想スプリングに基づくモーメントM4 を表す。第1の押圧スプリング6に基づくモーメントM1 は第1の仮想スプリングのモーメントM3 と第2の仮想スプリングのモーメントM4 とを合わせたモーメント(M3 +M4 )に等しくしてある。
【0014】直線L2 で表すモーメントM2 と直線L4 で表すモーメントM4 との対抗では時計回り領域において斜線部分S1 で示す差があり、反時計回り領域では斜線部分S2 で示す差がある。即ち、経糸張力の増大に伴ってイージングローラ2が原点位置から下方へ変位したとき、イージングローラ2が斜線部分S1 で示すモーメントを受ける。逆に、経糸張力の増大に伴ってイージングローラ2が原点位置から上方へ変位したとき、イージングローラ2が斜線部分S2 で示すモーメントを受ける。斜線部分S1 ,S2 で示すモーメントはいずれも原点位置からの変位量に比例する。
【0015】イージングローラ2及び消極イージングレバー3の自重に基づくモーメントM0 と経糸張力に基づくモーメントMT とは直線L3 のモーメントM3 で相殺されており、イージングローラ2が経糸張力の変動によって原点位置から変動したときのイージングローラ2及び消極イージングレバー3の慣性力に基づくモーメントには斜線部分S1 ,S2 で示すモーメントが対抗する。従って、イージングローラ2は従来の経糸張力調整装置の場合に比して原点位置に復帰し易く、織機が高速回転していたり、あるいは設定された経糸張力が弱い場合にも経糸張力変動に対するイージングローラ2の追随性は極めて良い。
【0016】本考案は勿論前記実施例にのみ限定されるものではなく、例えば図3に示す実施例も可能である。この実施例では開口運動に同期して回転するクランクレバー9に連結されたコネクティングロッド10と消極イージングレバー3とを積極イージングレバー11で連結し、積極イージングレバー11上にイージングローラ2を取り付けている。積極イージングレバー11は開口運動に同期して連結軸12を中心に前後方向に揺動し、さらに経糸張力変動に応じて支軸4を中心に上下に揺動する。即ち、この実施例では開口運動に伴う大きな経糸張力変動が積極イージングによって吸収され、それ以外の張力変動が第1及び第2の押圧スプリング6,8の伸縮によって吸収される。
【0017】又、本考案では押圧スプリング6,8の代わりに引っ張りスプリングを用いることもできる。
【0018】
【考案の効果】以上詳述したように本考案は、イージングローラのモーメントに対抗する第1のスプリングと、第1のスプリングの付勢力に対抗する第2のスプリングとによって経糸張力変動を吸収するようにしたので、経糸張力変動に伴うイージングローラの変位に対して第1あるいは第2のスプリングが復帰方向に働き、イージングローラが経糸張力変動に速やかに追随し得るという優れた効果を奏する。
- 【登録番号】第2551654号
【登録日】平成9年(1997)6月27日
【発行日】平成9年(1997)10月27日
【考案の名称】織機における経糸張力調整装置
- 【出願番号】実願平4−26773
【出願日】平成4年(1992)4月23日
【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機製作所
- 【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
【審査官】 山崎 豊
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